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2011年05月28日

「明日死ぬかもしれない」から生まれた、私の新しい「境地」

 「震災後に……」「震災前は……」という言い回しを使って話す人が増えて来た。ふと気付いてハッとする。これって、「戦前は……」「戦後だから……」という言葉たちと使い方が同じではないか。何十年に一度の、価値観が決定的に変わるできごとがあった、というのは事実なんだ……。

 私に関して言えば、震災前から、正確に言えば21世紀に入ってからうすうす感じていたことが、心の芯にどっしりと根をすえて、確定した。恥ずかしいけれど書く。「有名になりたい」または「後世に名を残したい」といった欲望が、ほとんどゼロになってきたのだ。


 3月11日、東日本大震災、福島第1原子力発電所で1号機が炉心溶融(メルトダウン→たぶん2号機・3号機も)、12日、1号機が水素爆発、14日、3号機が水素爆発、15日、2号機・4号機が爆発……。

 この5日間、私は生きた心地がしなかった。さらに大きな爆発が起きたら、放射性物質が大量に排出されて、命にかかわるかもしれない。その不安でいてもたってもいられず、ひたすらおろおろしていた。情報がないから、判断しようがないどころか、大変な事態が隠されていると考えたからよけいだ。

 実際、東京電力や政府の度重なるミスがありながら、この時期に「最悪の事態」まで至らなかったことは「奇跡的」でさえあり、メルトダウンだって最近まで隠されていたのだから、私の不安は根拠のないものではないどころか、当然のことだったのだ。そして今も、放射性物質は私が住む首都圏にも毎日降り注いでいて、政府関係の発表以上の量が蓄積しており、その影響は未知だ。


 それを怒るのがこの稿の目的ではない。その時から私は、人生をさらに深く考えるようになった。まもなく(ひょっとしたら数時間後に)死ぬかもしれない、と生まれて初めて体感した。いま自分がこだわっているものすべてに対して、意味を感じられなくなった。しばらく何をする気も起きなかった。この気持ちを共有できる相手もごく少なかった……いや今でも少し増えたけど多いとは言えない。そんな中で、自分自身をどう見るかが、変わってきた。

 私はこれまで生きて来て、本もたくさん出版した。「すこたん企画(現すこたんソーシャルサービス)」の活動の中で、かなり初期からカミングアウトして同性愛者への差別をなくそうとしてきた。『ひょっこりひょうたん島』のオリジナル版を記録していたことで、『ひょうたん島』にまつわる仕事やイベントにたくさんかかわってきた……。

 それ以外のいろんなところも含めて、自分の活動の原動力は、理不尽なことへの怒りであったり、持ち前の(親譲りの)正義感であったり、自分らしさとは何かの追求であったりした。しかしその中に、「有名になりたい」「影響力を持ちたい」という、自分を堕落させる「成分」がまぎれこんでいたことも、事実として率直に認めざるを得ない(この事実を「揚げ足取り」に利用し、伊藤悟の今までの活動を全否定するような人には、「アホだな」と言っておく。人間の複雑さ、不思議さが分かっていない未熟者だな、とも言っておく)。


 すーっと、本当にすーーーっと、もともと薄れつつあった「有名になりたい」という欲望が消えてきた。さらに加えて言えば「お金がたくさんほしい」「のんびり老後を過ごしたい」なんてありがちな欲望も、薄らぎつつある。だって、何より大事なのは、「私が生きていること」であり、それをおびやかされているのだから、それと闘うにせよ、そこから逃げるにせよ、そんな欲望はどうでもよくって、自分が生きたい、できるだけ粘って生きたい、こんなアホな原子力発電のせいで死ねるか……と考えるようになったのだから。

 震災がなくても、「有名になりたい」「目立ちたい」「影響力を持ちたい」欲が、人間をどれだけ「ごう慢」「上から目線」「ひとりよがり」「自己中」「《ありがとう》と《ごめんなさい》が言えない哀しい人」「人に共感できない冷たい人」……にしていくかを、いやと言うほど見てきた人生だったし。それに自分もなりそうだったし、今でも危ないところはあるし。

 でも「震災後」は、ずいぶんと揺らがなくなった。これがとってもとっても大事なことだと、よ〜く分かったから。放射性物質をどーんと浴びる、または長期的に浴び続けた影響でガンになる前に、もうちょっと成長して死にたいじゃないですか。気持ちはスッキリしてきた。


 でも、そんなに今、せっぱつまっているの? と尋ねる人がきっといると思う。うん、どう検討しても、せっぱ詰まっているの。ヤバいの。ウソだらけなの。だから私は、これからも、原子力発電について書いて書いて書きまくり、さらにそこから人間の「生き方」についても表現していきたいと、強く心に決めているのだ。
posted by さとる at 00:37| 原子力発電