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2009年11月12日

マイケル・ジャクソン『THIS IS IT』に、清々しく……

 私とほぼ同世代の、故・マイケル・ジャクソンさんの映画『THIS IS IT』を雨が激しく降る中、観に行った。すごかった!


 今年の7月中旬から、ロンドンで予定されていたマイケルさんの50公演のリハーサル映像を中心に構成された映画なのだけれど、見終った時、映画というより、その予定されていたライブを通して体感した錯覚におちいるほど、パフォーマンスは完成されていた。

 5〜6月には、メディアでは公演まで準備が間に合わないのではないかという憶測が流されていて、うかつにも私もそれを信じてしまっていたが、映画を観る限り、ステージの構成も、ショウのプログラムもほぼ固まっていて、練習も入念に行なわれており、もし公演を遅らせる要素があるとすればマイケルさんの「完璧主義」だけだろうと思わせるほどだった。メディアをやはり、信じてはいけない。

 映画については→こちら/マイケルさんについては→こちら


 曲の入り方に細かく指示を出すマイケルさん……立ち位置から、各楽器の音の出し方から、照明の変化のさせ方から、ダンサーとの絡み方から、そして自分の歌とダンスまで。そのこだわりがまるでうざったくない。正確で、的確で、さらに穏やかにスタッフに語りかけるからだ。

 「怒ってないよ、怒ってない、ラブ!」なんて言ったり、女性ギタリストには「ここは君の見せ場なんだ、いちばん高い音を出して……そう、そう、いい感じだ……」とアドバイスする。ここ10年ほどメディアがつくってきた悪いイメージとはまったく異なる「素」のマイケルさんがそこにはいる。穏やかで優しい「気」にあふれている。


 ライブの構成の見事さといったらない。ステージ後ろのスクリーンには、たくさんの映像が流される。ギャング(?)に追われるマイケルさんがビルの一室に追いつめられたところで、ガラスを割って外へ飛び出すと、そこがステージとなりマイケルさんが歌い出す。アマゾンの自然が破壊されていくCGでは、若木を守ろうとしてブルドーザーにひかれそうになる女の子の映像から、ステージにブルドーザーが出てきて、それをマイケルさんが止めて女の子を守り、歌に入る……。

 書ききれないほどの映像とセットの工夫。お金がかかっても、観客に夢と、そして地球を救う(という言葉が大げさでも偽善でもないところが素敵だ)ためのメッセージを伝えようとしたマイケルさん。「見たこともないステージを創って体験してもらって、みんなに希望を持ってほしい……」。その大前提にパフォーマンスを楽しんでもらうことがあるのも熟知していて、こだわりにこだわって、自分という「楽器」を極限まで使いこなす。

 彼は51歳になろうとしている年齢だ。それであれだけの声が出せて、あれだけのダンスができること自体が奇跡だし、息を飲むほど、歌い踊る姿が美しい、神々しいとさえ言うべきか。自分の曲については、曲にかかわる音のすべてを知っていて、それを巧みに操っていく。年齢の壁など感じさせない彼の姿に心底励まされる。


 うれしいのは、スタッフとマイケルさんが一体になって、最高のライブを創ろうという気持ちが、映画からとめどなく伝わってくることだ。言っちゃえば、「愛」が画面からこぼれ落ちてくるのだ。空間が温かいのに泣けてくる。

 サービスも満点。ほとんどのヒット曲をやってくれる。それもオリジナル録音を超えようかというパフォーマンスで。驚いたのは、ジャクソン・ファイブ時代の曲もメドレーで入っていたこと。1973年に来日した時、声変りで苦しんでいた可愛い「マイケルくん」を武道館のとてつもなく悪い席で観ていた私としては、感無量になる。家族との確執もあるのに。

 そんな私の心を見透かすかのように、「当時のメンバーへの感謝の言葉を入れるよ」とマイケルさんが言う。すると映画の画面はその言葉が入ったリハーサル風景になめらかにつながる。この例にあるように、マイケルさんの言葉→修正されたステージ、という構成になっているシーンも多く、彼のステージ構成能力の果てしない高さも分かる仕掛けになっている。あまりにも才能がありすぎた人だとさえ思った。


 このライブが完成していたら……なんて言葉は言いたくない。いつもマイケルさんは全身全霊をかけて音楽で表現していたわけだし。それでも、このライブを観客とともに、スタッフやダンサーたちとともに、彼が(スタッフが)楽しめなかったことが心残りになる。何ともくやしい。


 知り合いのTさんが、マイケルをほとんど知らない20代を映画に誘った。彼は「はやってるから話題にするために観とくか」ぐらいの気持ちでこの映画を観始め、もう3曲目を過ぎるあたりから目の色が変わり、涙さえ流したとか。観た後、(マイケルさんを)侮っていて失礼だった、と語ったという。

 それだけの力のある映画だ。マイケルさんを知らない人にも、知っていて「最近はイマイチ……」なんて思っていた人にも、映画館に急いでほしい。当分……もしかしたら今世紀中にはもう現れないキャラクターだから。
posted by さとる at 14:07| 私を支える歌